〜なんとなく続く“だるさ”や“むくみ”、実は隠れた病気のサインかもしれません〜
今回は、体調不良の原因が、甲状腺機能低下症だったケースをご紹介します。
なんとなく続く「疲れ」…それは、年齢のせいだけじゃない?
最近「疲れがとれない」「なんだか常にだるい」と感じていませんか?
患者さんの中には「年齢のせいかな」と諦めてしまっている方も多いのですが、その慢性的な不調が実は
甲状腺の不調=甲状腺機能低下症によるものだった…というケースがあるのです。
睡眠をとっても抜けない疲労感
一晩ぐっすり寝たはずなのに疲れが取れない、朝が特につらい。
日中もぼーっとする、やる気が出ない。
これらの症状はストレスや過労(オーバーワーク)、疲労の蓄積、お酒の飲みすぎによる睡眠の質の低下、自律神経の乱れ、無呼吸症候群であったりすることもありますが、
内分泌ホルモンの不足による「代謝そのものが落ちている状態」で起こることがあります。
その代謝を大きく左右するのが、甲状腺ホルモンです。甲状腺ホルモンは、体温・代謝・心拍数などを調整しており、これが不足すると全身が“スローな状態”に陥ります。
肩こり・腰痛・むくみ…全部つながってるかもしれません
「慢性的な肩こり」や「むくみやすさ」「肌の乾燥」「気分の落ち込み」なども、甲状腺機能低下症の典型的なサインです。
こうした不調は一見バラバラに見えますが、全てが“身体のエネルギー循環の低下”に関係しています。
ちなみに、、2021年のPubMedの医療論文では、おおよそ60歳くらいまでは代謝が大きく変動しないとの結果が報告されています(病気やお薬の影響、カロリー過剰摂取、運動不足を除く)
- Daily energy expenditure through the human life course – PubMed
- Daily Energy Expenditure through the Human Life Course – PMC – PubMed Central
実は意外と多い「甲状腺機能低下症」とは?
甲状腺機能低下症(hypothyroidism)は、甲状腺ホルモンが不足することで、全身の代謝が低下する疾患です。重度の場合は「橋本病(慢性甲状腺炎)」と診断されることもあります。
身近なたとえで表現すると、スマホのバッテリーが切れかけていて、省エネモードに入ってしまっている状態に近いです。
女性に多く、しかも気づかれにくい
この病気は男性にも発症しますが特に女性に多く、出産後・更年期・ストレスの多い時期に発症しやすいとされています。
厚労省の調査や学会論文の報告では、女性の約10人に1人が潜在的に機能低下の状態にあるとも示されています【※1】
しかし、「風邪っぽい」「疲れやすい」といった曖昧な症状が多いため、医療機関を受診しても気づかれないケースも少なくありません。
内科学によると、潜在性の機能低下は10%超とも言われる
以下のような研究報告もあります:
有病率の報告(Subclinical Hypothyroidism)
米国国立衛生研究所(NIH)の大規模調査では、**40歳以上の女性における潜在性甲状腺機能低下症の有病率は10.3%**とされています【※2】。
特に甲状腺刺激ホルモン(TSH)がわずかに高く、FT4が正常といったグレーゾーンでは、「なんとなく不調だけど原因不明」とされがちです。
当院で見つかった“気づきのきっかけ”とは?
当院でも、「何をしてもだるさが抜けない」「鍼灸の施術やマッサージをしても疲れが早く戻る」というお悩みを伺うことが多々あります。
ある患者さんでは、以下のような所見がありました。
体重が戻らないなど、体型に変化が。。
今回の患者様は2人目の出産後、食生活や運動量は変わらず、体調管理には気を付けているのに体重が増加し、先ほどの症状に加え、さらに以前よりも全体的にむくみやすく、所見もふっくらとした印象でした。
このようなむくみと脂肪が混在したような変化も、甲状腺機能低下による代謝不良のサインの可能性があります。
だるさ・冷え・肌の乾燥の訴え
「常にだるく、寒がりで、肌も粉を吹くほど乾燥している」
こうした状態も、甲状腺ホルモンの低下と一致するケースがあります。
もちろん、すべてがこの病気に当てはまるわけではありませんが、“明らかに体調が何か変化している”という感覚は無視しないでいただきたいと思っています。
鍼灸師として感じる「コリの質」の違い
あくまで私たち施術者の臨床的な印象ではありますが、
甲状腺機能低下が疑われる方の筋肉は、全体的に「ゴムのような弾力があり、深部まで頑固にこわばっている」ように感じることがあります。
特に肩や背中、腰の筋肉が「表面は柔らかそうに見えても、中にしっかり芯がある」「何度施術してもすぐ戻る」といった印象を持つケースもあります。
もちろん、こうした感触だけで診断できるものではありませんが、“緩みにくいコリ”が特徴的に現れている場合、体の内側からの代謝不良が影響している可能性もあると感じています。
こうした身体のサインは、医学的な診断とは別に、施術を通じて気づけ《体の声》ともいえるかもしれません。
鍼灸院としてできることと限界
私たちは医療類似行為を行う鍼灸マッサージ院「施術所」です。
医師等の医療機関ではないため、診断は行えません。
しかし、施術を通してお身体からの不調や気づきを提供することはできます。
「いつもと違う」「明らかに体質が変わった気がする」
そうした身体の声を、一緒に拾い上げることは可能です。
触診や問診の中で「これは何かおかしい」と感じた際には、速やかに医療機関での検査をおすすめしています。
医師の検査をすすめる大切さ
特に、TSH・FT4・FT3の血液検査を行うことで、甲状腺機能の状態は正確に把握できます。
そのうえで、必要な治療(ホルモン補充など)を受けながら、鍼灸での体質改善や代謝サポートを並行して行う方もいらっしゃいます。
終わりに、、だるさに「理由がある」かもしれない
なんとなく感じていた不調、
それがもし「甲状腺機能低下症」だとしたら、
原因がわかることで治療やケアの方向性は大きく変わります。
「年齢のせいかな」と思って見逃していたサインを、
どうかこのブログが“気づき”のきっかけになれば幸いです。
参考文献リンク
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【※1】日本甲状腺学会「甲状腺機能低下症」https://www.japanthyroid.jp/doctor/guide/
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【※2】Hollowell JG et al. (2002) “Serum TSH, T4, and Thyroid Antibodies in the United States Population (1988–1994).” J Clin Endocrinol Metab https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11836274/
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【※3】Rodriguez-Rodriguez P, et al. (2021) “Muscle Symptoms and Hypothyroidism: An Update.” Endocrine Reviews. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33887867/