鍼とお灸はなぜ効くのか?

まず、鍼灸治療とは?

鍼灸(しんきゅう)治療とは、細い鍼(はり)を体に刺したり、もぐさを使って温めたりすることで、体のバランスを整え、不調をやわらげる東洋医学の治療法です。中国にルーツがあり、数千年の歴史をもちながら、今もなお多くの人に利用されています。

肩こりや腰痛だけでなく、頭痛、冷え性、ストレス、不眠など、幅広い症状に対応できるのが特徴です。薬に頼らず、体の自然な力を引き出す方法として注目されています。

では、なぜ鍼やお灸がこのような効果をもたらすのでしょうか?その鍵を握るのが「自律神経」です。

── 神経・ホルモン・血流に働く“静かなスイッチ”の仕組み

「鍼灸は身体に良いと聞くけれど、なぜ効くのか?」「実際、どうして不調が改善されるのか?」

そう感じる方に向けて、今回は当院の臨床的な知見と、現代医学の視点を交えながら、鍼とお灸の“効く理由”をしっかりとご紹介します。まずは、私たちが感じる「気持ちよさ」にも種類があるという話から始めましょう。


「気持ちよさ」にも2種類ある──興奮か、回復か

私たちが“気持ちいい”と感じる時、脳内ではさまざまな神経伝達物質が分泌されています。ただし、その種類と作用には2つの大きな方向性があります。

興奮系の「気持ちいい」=ドーパミン系

これは「報酬系」(快感・やる気・刺激)の神経回路です。

  • 主な物質:ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン
  • 出る場面:ギャンブルやSNSでの反応、ゲームの成功、恋愛やスポーツでの高揚感
  • 身体の状態:心拍数の上昇、集中力アップ、交感神経の興奮
  • 長期的影響:疲労、不眠、不安、依存傾向

リラックス系の「気持ちいい」=セロトニン/オキシトシン系

これは「安心・安定・回復」の回路です。

  • 主な物質:セロトニン、オキシトシン、エンドルフィン(鎮痛ホルモン)
  • 出る場面:温泉、マッサージ、深呼吸、信頼する人との触れ合い
  • 身体の状態:呼吸・脈拍が落ち着き、副交感神経が優位に
  • 長期的影響:免疫力向上、睡眠改善、ストレス耐性アップ

鍼灸で出るのは「リラックス系」の快感

鍼やお灸で出てくる“心地よさ”は、主にリラックス系ホルモンによるものです。鍼が「ズーンと響く」「気持ちいい痛み」と感じるとき、それはドーパミン系の興奮ではなく、セロトニンやエンドルフィンによる“安心の快感”です。

気持ちよさの種類 主な物質 自律神経 身体の状態
興奮・快感 ドーパミン、ノルアドレナリン、他 交感神経 興奮・集中・依存リスク
安心・癒し セロトニン、オキシトシン、エンドルフィン 副交感神経 安定・回復・免疫調整

この違いを踏まえて、次に鍼とお灸がどう作用するのか、順を追って解説していきます。


鍼治療はなぜ効くのか?

鍼は、皮膚を通して身体の深部に刺激を加える医療技術です。髪の毛ほどの細い鍼を経穴(いわゆる“ツボ”)に刺入し、神経や筋膜、血流に対して働きかけます。

神経系への直接的な刺激

鍼を刺すと、皮膚・筋膜を通じて感覚神経(Aδ線維やC線維)が刺激されます。この刺激が脊髄を経て脳へ伝達されることで、視床下部や脳幹が反応し、自律神経の調整が起こります。

  • 交感神経の過緊張が抑制され、副交感神経が優位になる
  • 筋肉の緊張が緩み、血流が改善される
  • 慢性的な痛みが軽減される(内因性オピオイドの放出)

「ツボ」と「トリガーポイント」の関係

ツボは東洋医学の概念として広く使われていますが、実際には現代医学でいう「トリガーポイント」や「神経交差点」と重なる部位が多く存在します。神経や筋膜が交差しやすい部位、感覚神経終末が集中している場所──そうした生理学的に“反応が起こりやすい地点”が、古くからツボとして経験的に発見されてきたのです。

つまり、ツボ刺激=非科学的、という時代はすでに終わっており、今や神経学的・筋膜的にも説明可能なポイントであることが、研究から明らかになっています。


お灸はなぜ効くのか?

お灸は、もぐさ(ヨモギの葉から作った艾)を燃やし、皮膚の上からツボに温熱刺激を加える療法です。

温熱刺激による副交感神経の活性化

皮膚の温点受容器が刺激されると、感覚神経を通じて脳へ信号が送られます。その結果、迷走神経を中心とした副交感神経系が活性化。

  • 心拍が落ち着き、呼吸が深くなる
  • 内臓の動きが促進され、消化機能が整う
  • 免疫細胞が活性化し、体質改善にもつながる

また、鍼同様にお灸もエンドルフィンやセロトニンといった“安心のホルモン”を分泌させることが知られています。

熱すぎない「心地よい温かさ」が鍵

熱刺激が強すぎると逆に交感神経が優位になってしまうため、適温の温熱刺激(じんわり気持ちよい程度)が、副交感神経を刺激する“快のスイッチ”として作用します。


鍼灸は“回復系の神経スイッチ”を入れる治療法

鍼灸の本質は、「心地よい刺激を通して、身体を回復モードに切り替えること」にあります。

  • 神経系:交感神経の興奮を抑え、副交感神経を優位に導く
  • ホルモン系:セロトニン・オキシトシン・エンドルフィンなどを分泌させる
  • 循環系:筋肉をゆるめ、血流を改善し、冷えや痛みを緩和する

これらが複合的に働き、自然治癒力が最大限に引き出されていく──それが鍼灸の“効く理由”です。

薬に頼らず、不調の根本にアプローチできる方法として、鍼灸は現代においても十分な根拠と実績を持った医療です。もしあなたが「なんとなく調子が悪い」「原因不明の不快感が続いている」そんな状態であれば、鍼灸は大きな助けになるかもしれません。

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